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新規アトピー性皮膚炎マウスの樹立

アトピー性皮膚炎の病因・病態は複雑でその治療薬の開発には,動物モデルの存在が欠かせません。私達は,多様化するアトピー性皮膚炎の病態に即した新たな動物モデルの開発に,富山大学医学部(臨床分子病態検査学講座 北島勲教授)との共同研究として着手しました。IKK2NF-kBの活性化シグナルに関連する分子です。表皮細胞特異的にIKK2を欠損するマウスは,全身の皮膚に炎症が生じ,生後2週間程度で死亡します。私達は,表皮と並ぶ皮膚の組織構成細胞である線維芽細胞にIKK2の欠損を導入することで,皮膚炎が誘導されるのではないかと考えました。しかしながら,全身の皮膚線維芽細胞にIKK2欠損を導入すると表皮の場合と同様に,全身性の炎症により早期に死亡する可能性があります。そこで,顔面の皮膚線維芽細胞と体幹部の皮膚線維芽細胞では前駆細胞の起源が異なることに着目しました。すなわち,顔面の皮膚線維芽細胞への分化能を有する頭蓋神経堤細胞でCreを発現するNestincreマウスを利用して,IKK2のコンディショナル欠損マウスを作出しました。

Nestincre;Ikk2f/fマウスは,顔面皮膚に好酸球浸潤を伴う皮膚炎を自然発症し,激しい掻破行動を示しました。

掻破行動動画

皮疹部の遺伝子発現様式は患者のパターンと高い類似性を示すものでありました。また血清IgEやペリオスチンなどの2型炎症マーカーも亢進することが分かりました。骨髄移植実験の結果,宿主のIKK2欠損が皮膚炎発症に必須条件でありました。タクロリムスなどの免疫抑制剤やJAK阻害剤の投与により皮膚炎症状が軽減されることから,本マウスが,難治性ADや掻破の治療法開発にとって有用な動物モデルと成ることを示しています。 今後は,本マウスの皮膚炎の病態や,痒みのメカニズムを紐解くことにより,新たな治療法の開発を目指していく予定です。

参考文献

  1. J Invest Dermatol, 139, 1274-1283,2019.