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マトリックスタンパク質による炎症惹起

さまざまな炎症メディエーターが線維芽細胞や平滑筋細胞などの組織構成細胞に作用すると、マトリックスタンパク質が産生されます。このマトリックスタンパク質は普段組織の構造維持に重要な役割を果たしますが、病的状態では線維化を生じて生体機能に障害を生じます。これに加えて、最近、マトリックスタンパク質が細胞表面分子に結合して細胞機能に影響を与えることも知られ、マトリセルラータンパク質と呼ばれています。

私たちは、マトリックスタンパク質の一つであるperiostinが、マトリセルラータンパク質として機能することにより炎症惹起に関与していることを明らかにしました。

私たちは、IL-4、IL-13の気道上皮細胞への作用を明らかにするために、DNAマイクロアレイ法を用いてその誘導遺伝子を同定しました。IL-4、IL-13の免疫細胞への作用については当時すでに明らかになっていましたが、上皮細胞などの組織構成細胞への作用についてはほとんど不明でした。マイクロアレイにより同定された膨大な数の遺伝子の中で、マトリックスタンパク質であるperiostin遺伝子に着目しました。私たちが解析を始めた当時、このタンパク質の機能はほとんど不明であり、炎症との関連性については全く知られていませんでした。PeriostinはIL-4、IL-13の誘導産物の一つであるため、アレルギー疾患の病態に関与していると考えて解析を進めた結果、まず、気管支喘息の線維化に関与していることを見出し、その後、アトピー性皮膚炎、慢性副鼻腔炎、アレルギー性結膜炎などほとんどのアレルギー疾患において高発現していることを明らかにしました。

さらに、間質性肺炎や強皮症といった非アレルギー性の炎症疾患においても高発現しており、広く炎症疾患に関与した分子であることを明らかにしました。  
 Periostinの炎症惹起機序を明らかにするために、in vitroin vivoの両方の系で解析を行いました。その結果、periostinは細胞表面上のインテグリンに結合して、単独で、あるいはIL-1aやTNFaなどの炎症性サイトカインと協同して、炎症におけるマスター分子であるNF-kBを活性化することを見出しました。さらに、これと一致して、periostin欠損マウスにおいては、皮膚におけるアレルギー性炎症や肺間質の線維化が改善されることを確認しました。従来線維化は炎症機転の最終結果だと考えられてきましたが、この結果は線維化を起点として炎症がさらに増悪、遷延化することを示しており、これまでの炎症に関する概念を変える重要な基礎的知見であると考えています。

Periostinが炎症部位において高発現していることから、このperiostinが血液などの体液に移行し、それを検出することでバイオマーカーとなるのではないかと考えました。それを検証するために、periostinを検出するELISAキットを構築し、さまざまな疾患において検討を行いました。その結果、気管支喘息、慢性副鼻腔炎、アトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患のみでなく、間質性肺炎、強皮症、乾癬、増殖糖尿病網膜症、胆管細胞癌などさまざまな疾患で、ペリオスチンレベルが上昇することが判明しました。現在、periostin検出キットを体外診断薬として実用化すべく臨床性能試験の実施を進めています。また、periostinがさまざまな炎症疾患の病態形成に重要なことから治療標的になると考えており、periostinに対する中和抗体や阻害作用を持つ低分子化合物を探索して、治療薬のリード化合物として開発を進めています。

参考文献

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