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アレルギー疾患の遺伝要因の同定

人間のゲノムは全て同じ配列ではなく、約300から1000塩基に一箇所の割合で異なる塩基が存在します。現在では、それは一塩基多型(SNP)と呼ばれ、病気への罹患性、薬剤への反応性を決めていることが知られています。一方、2型サイトカインであるIL-4IL-13は細胞表面上のレセプターに結合して、アレルギー疾患の発症に重要なシグナルを伝達します。

私たちは、アレルギー疾患の発症に重要なサイトカインやレセプターの遺伝子に、タンパク質構造や機能に影響を与える遺伝子変異、つまりSNPが存在すれば、そのSNPはアレルギー疾患における遺伝要因となるのではないかと考えました。今でこそSNPがさまざまな疾患における遺伝要因となることは常識となっていますが、私たちがこの研究を始めた1990年代半ばではまだそのような考えは定着しておらず、SNPという言葉自体存在していませんでした。この仮説は、疾患の遺伝的背景という曖昧な概念を、遺伝子レベルで説明することにつながるという点で臨床的にも基礎的にも大きな意義を持つと考え、遺伝学的手法と生化学的手法を組み合わせてこの仮説の実証に取り組みました。

最初に、IL-4とIL-13の共通なレセプター構成成分であるIL-4レセプターa鎖を対象としました。まず、この遺伝子においてアミノ酸変異を引き起こすSNPを見つけ、健常者と喘息患者では遺伝子型の頻度が異なっていることを示しました。さらに、細胞を用いた再構成の解析により、二つの遺伝子型は機能的にも違いがあることを明らかにしました。つまり、喘息患者で出現頻度の高いSNPはシグナルを強く伝達します。このようにして、このSNPが気管支喘息の遺伝要因であることを証明しました。このSNPはアレルギー性炎症において機能的差異を見出した初めての例となり、世界的に注目されました。

つぎにリガンドであるIL-13を対象としました。IL-13遺伝子にもアミノ酸変異を起こすSNPが存在し、健常者と喘息患者とで遺伝子型の頻度が異なっており、機能的にもシグナル伝達に差異を生じることを示しました。さらに、このIL-13遺伝子上のSNPによる機能的差異を生化学的に証明するために、リガンドとレセプターの構造的解析を行いました。IL-13とレセプターとの結合様式は構造的に明らかとなっており、結合に関与している個々のアミノ酸残基も確かめられています。私たちは、SNPによるアミノ酸変異によりIL-13タンパク質全体の構造が変化し、その結果リガンドとレセプターとの結合に影響を生じることを証明しました。

このように、タンパク質の構造・機能を基盤として、IL-4とIL-13のシグナル伝達経路において、リガンドとレセプターに存在するアミノ酸変異を引き起こすSNPが、アレルギー性炎症の遺伝要因であることを証明しました。現在、IL-4やIL-13、あるいはその受容体を標的とした抗体が作製され、気管支喘息やアトピー性皮膚炎に対する治療薬として開発されています。私たちの研究結果がこうした治療薬の効果を説明する基盤の一つになったと考えています。

参考文献

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