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スコットランド留学記

2005年10月27日から約5週間、実験手技を教えていただくために、スコットランドにあるグラスゴー大学の生物医学研究所感染免疫部門のGraham H. Coombs先生の研究室へ行かせていただきました。

Coombs先生

私は現在、扁平上皮細胞癌抗原(SCCA)というプロテアーゼ阻害因子の、寄生虫、特にLeishmania mexicana感染防御機構における役割というテーマのもとに研究を進めています。これまでの実験で、Leishmania mexicanaの産生している酵素活性をSCCAが阻害するということがわかっていました。そこで次は、実際にSCCAが細胞のLeishmania mexicana感染を防ぐことができるか明らかにしようとしました。しかし、いざLeishmania mexicanaを培養し実験系を進めていこうとすると、様々な困難が生じ感染実験を確立していくことができませんでした。そんな折、Leishmania種における感染免疫分野で非常に優れた実績と経験のあるGraham H. Coombs先生の研究室への短期留学の話が持ちあがったのです。

留学決定から出発までの約ひと月半の間、これまで海外にはツアーでしか行ったことがなく、もちろん英語の話せない私にとっては他人事のような、どこか現実味のない話でした。そのひと月半は留学先に持っていかなくてはならない実験材料の調整に追われ、準備が整ったのは出発三日前となりました。そんな私に、研究室の方々はきっとやきもきしていたのではないかと思います・・・そして出発当日、さすがに他人事ではなく、大きな不安と少しの期待を感じながら日本を発ちました。

グラスゴー大学の遠景

グラスゴーはスコットランド最大の都市で、産業都市であると同時に文化と芸術の街としても知られています。そしてグラスゴー大学は、スコットランドで最も規模の大きな大学であり、スコットランドではセントアンドリュース大学に次いで二番目に古く、1451年に創立された大学です。ネオゴシック調の校舎とその横に広がる大きなケルビングローブ公園は私にとってのヨーロッパのイメージそのものでした。

ラボのメンバーと

研究室では大学院生の方と技術官の方に実験手技を教えていただきました。私は他の大学の研究室で実験をすることが初めてだったので、実験器具の違いや研究室内の決まり事など慣れないことが多く色々なことに戸惑いましたが、みなさんに助けていただいてそれほど不自由なく実験を行うことができました。言葉の方はといいますと、身振り手振りと片言の英語でなんとか伝え、英語はゆっくり話してもらいました。スコットランドの方の英語はとても速いです。スコットランド英語は訛りが強いと言いますが、気をつけて話していただいたからなのか、ただ私が訛りを感じるほどに英語を理解できてないのか、私はそれほど感じませんでした。実験において重要なことは何度も確認して、それでも理解できないときは紙に書いていただくようにしていました。やっぱりそれでもこっちに戻ってから理解できてない部分が多々あるのに気付き、今でもメールで教えていただいています。そのメール作成も英語のいい勉強になっています。肝心な実験の成果はといいますと、今後につながるいいデータを得ることができ、現在進行中です。

バグパイパーのおじさん

滞在中、せっかくなので週末はグラスゴーはもちろん、スコットランドの首都エジンバラや港町のダンディー、ちょっと足を延ばしてロンドンへも観光に行ってまいりました。ヨーロッパの中でも屈指の美しい街並みであるエジンバラでは世界遺産に認定されているエジンバラ城や市内観光バスなど多くのところで日本語の音声ガイドがあり、日本人観光客をたくさん見かけ、久々の日本語に安心したひと時でした。私は、民族衣装のキルトのスカートを穿いてバグパイプを吹くおじさんとそのメロディーに感動して、日帰りのつもりを一泊に変更してエジンバラを満喫しました。このような具合に、観光もほどほどに楽しんできました。

エジンバラの街並み

そして帰りの出発日が近付いてきて、引き続き日本でも同様の実験が行えるように持ち帰る試薬についての相談が始まりました。抗体やペプチドなど、そしてなんとLeishmania mexicanaも持ち帰ったほうがいいのではないかという話がでました。私はこれを聞いた時、万が一荷物検査で捕まってこれが寄生虫だと発覚したらバイオテロ容疑で逮捕されるのではないか・・・と気が気でなかったのですが、結局は日本でも研究室に保存しているLeishmania mexicanaを使用して同様の実験を行えるように調整できるということがわかり、寄生虫の密輸はせずに済みました。

 帰路の出発前日にグラスゴー大学の研究室の方々とお別れをして、出発となりました。最後の日には私の英語能力について「Not perfect, but better!」とちょっと褒めていただきました。帰ってからも英語のニュースを見て勉強しようと思っていたのですが、戻って一ヶ月ちょっとまだ一度も見ていません・・・でも今日から見ようと思います!帰りの飛行機の中では、フィンランド上空で空一面にカーテンのように広がるオーロラを見ることができ、ちょっとしたお土産をもらったような気分になりました。もちろん出原研究室のみんなへのお土産もしっかり手に持って、無事に日本に戻ってくることができました。

 今回の短期留学は、Coombs先生とその研究室の方々、そして出原先生と研究室のみなさんの温かい励ましと支えがあったおかげで無事に終えることができました。振り返ってみて楽しいことばかりだったわけではないのですが、もちろん研究に関しても、私自身の考え方や物事の捉え方においても大きく成長できる大変いい経験となりました。本当にありがとうございました。

(2006年1月14日)