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グアテマラでの実習指導奮戦記

我ら国境なき臨床化学者たち ― 2

2010年暮れのウルグアイに引き続いて、2011年暮れにグアテマラで、International Federation of Clinical Chemistry and Laboratory Medicine(IFCC:国際臨床化学連合)の一組織であるCommittee On Clinical Molecular Biology Curriculum (C-CMBC)の活動として、遺伝子検査に関する実習指導を行いました。C-CMBCについては、「ウルグアイでの実習指導奮闘記―我ら国境なき臨床化学者たち―」に詳細を記載しているので、そちらをご覧になって下さい。まず、グアテマラがどんな国なのか説明しましょう。グアテマラは中米諸国の一つで、メキシコのすぐ南に位置します。コーヒーの産地として有名なのはご存知でしょう。赤道に近いから目茶苦茶暑いのかと思うとそうではなく、一年の内ほとんどは春のような穏やかな気候となっています。マヤ文明の遺跡やスペイン領当時の街並みが観光の対象として有名です。しかし、街中の治安はとても悪く、多くのお店には銃を抱えたガードマンが常駐しています。今回会場となったサン・カルロス大学とホテルとは徒歩で20-30分の距離だったので、「たまには歩いて行こうか。」と言うと、「とんでもない。生命を保障できない。」と言われてしまいました。

IFCCのロゴ

筆者がC-CMBCの実習コースに指導者として参加するのは、これが2回目です。一年前のウルグアイでのコースでは、全くと言っていいほど様子がわからないまま参加し、実習中はうろうろしながら他の委員たちに何度も内容や手順を確認する有様でした。今回はもっとテキパキ指導するぞと意気込み、事前に実習の手順をシュミレーションし、講義も練習をしっかりしてから、グアテマラに乗り込んで行きました。そんな意気込みを吹っ飛ばしてしまうようなニュースをコース前日の朝食時に聞かされました。ハイデルベルグ大学マンハイム校のParviz Ahmad-Nejad博士が、お子さんの体の具合が悪くて急に来られなくなったというのです。Parviz は委員長であるMichael Neumaier教授の片腕であり、ウルグアイの実習コースでも要の役目を担っていました。そのParvizが来られなくなった影響は甚大です。さっそく彼が担当するはずだった講義や実習説明が振り分けられました。そして朝食後からすぐにホテルの部屋で、新しく振り分けられた担当分のスライド作りや原稿書きが始まりました。Native speakerでない筆者にとっては、これは容易なことではありません。通常、英語での講義では少なくとも2,3週間前から準備を始めなければ到底充分なパフォーマンスができないのに、何と前日に言われるとは。遺跡好きの筆者としては、その日にはマヤ文明のテイカル遺跡を訪ねようと密かに考えていたのに、そんな計画は吹っ飛び、日本から持ってきたカップヌードルをホテルの部屋ですすりながら夜までかかって準備をしました。

表1 グアテマラでのコースにおける典型的な一日(2日目)のスケジュールを示しています。

受講生の数はウルグアイでのコースと同じく約20名ほどでした。受講生は、政府・企業に勤務している方、大学教員、大学院生などが占めていました。特に、農作物や魚介類における微生物検査を担当している政府機関関係者が目立ちました。コースの内容は、ウルグアイでのものとほとんど同じでした。実習では、自分達の血液からのDNA調整、それを用いた基本的なPCR操作、用意した試料を用いてのアレル特異的RFLPとPCRの実施、in silicoでのプライマーデザインとシークエンス確認となっています。一方、講義では、遺伝病とその診断、分子腫瘍学、ファーマコゲノミックス、分子微生物学、分子生物学の先端技術などについて話します。委員のメンバーでは、Michael Neumaier教授(ハイデルベルグ大学マンハイム校、ドイツ)、Evi Lianidou教授(アテネ大学、ギリシャ)、私の3名がウルグアイの時と同じで、Laura Cremonesi博士(サンラファエル科学研究所、イタリア)の代わりにAndrea Ferreira-Gonzalez教授(バージニアコモンウェルス大学、アメリカ)が新たに加わりました。また、ウルグアイでの受講者の中からMs. Maria Shöraderが選ばれて、指導者の一人として参加しました。コースでは英語が公用語ですが、実習が始まると受講者たちは皆スペイン語で話し始めます(この光景はウルグアイと同じです)。意味不明な喧噪の中で実習が進められていきました。

今回のコースに参加して感じたのは、受講者たちの非常に高いモチベーションでした。実習、講義に参加する姿勢が非常に能動的、積極的であり、熱心に質問を私たちに投げかけます。ここで学んだことを職場や研究室に持ち帰り、自分がさまざまな問題点を解決するんだ、自分が職場や研究室をリードしていくんだという強い意識を感じました。こうした点では大変やりがいのあるコースだったと言えるでしょう。また、2年目となって委員同士の理解もずいぶんとできるようになりました。寝食を共にするコースを2年も経験すると性格もずいぶんつかめてきます。そのおかげでウルグアイの時よりもずいぶんとリラックスしてチームプレーができました。他のメンバーたちのプレゼンにおいて学ぶことも多く、まさに臨床化学に関する講義や実習の世界レベルを実感することができました。これは委員を務めたことでの収穫だと言っていいでしょう。これでC-CMBC委員としての1期(3年間)が終了です。もう1期(3年間)務めなければいけません。次回はさらにスキルアップしてコースに参加しなければと思っているところです。

(平成24年6月記)