第80回分子生命科学セミナー/大学院特別講義


演題:RNAバイオロジー+ケミカルバイオロジー=画期的アカデミア創薬


演者:萩原正敏

京都大学医学研究科形態形成機構学教室

日時:平成31年1月22日(火)17:30〜18:30
場所:場所:臨床小講堂(3114室)


要旨

近年、米国では、創薬シーズ発掘などの探索段階において、アカデミアが主導的役割を果たす創薬スタイルが主流となっている。これに対し、 我が国では、依然として大手製薬企業が創薬の主たる担い手であるが、アカデミア創薬への期待は高まっている。細胞や生体に直接、新薬候補化合物を投与して効果を検討する表現型アッセイはアカデミアが得意な分野であるが、標的とする疾患の病態を反映する評価系を構築できれ ば、大手製薬企業などが行っている従来型のin vitroスクリーニ ングより、遥かに効率良く有望な化合物の活性を評価できる。例えば、 我々はスプライシングなどの遺伝子発現過程を、蛍光・発光プローブに よって生体内で可視化する独自技術を開発し、創薬スクリーニングに応 用している。その他にも種々の培養細胞や動物を用いた表現型アッセイ による創薬スクリーニングを試み、トランスクリプトーム解析などによ り、ヒット化合物の分子標的を特定し、標的疾患を検討している。この ような新しい創薬手法を駆使して、従来は治療出来なかった筋ジストロ フィーやライソゾーム病など遺伝病の治療薬候補物質や、ダウン症治療 薬、癌細胞特異的に飢餓を誘導する化合物、癌性疼痛抑制薬、移植用臓 器保護薬など、次々に画期的な薬剤候補物質を見出しつつある。またそ の探索過程で、新規低分子添加後の細胞等の解析から、これまで未知で あった疾患の病態や分子機構の片鱗が見えてくることがある。 RNAバイオロジーとケミカルバイオロジーを繋ぐ、新しい研究手法とそ の成果について述べる。

参考文献


1.Nishida A, et al. (2011) Chemical treatment enhances skipping of a mutated exon in the dystrophin gene. Nature Communications 2, 308.
2.Yoshida M, et al. (2015) Rectifier of aberrant mRNA splicing recovers tRNA modification in familial dysautonomia. Proc Natl Acad Sci USA 112(9):2764-2769.
3.Nakano-Kobayashi A, et al. (2017) Prenatal neurogenesis induction therapy normalizes brain structure and function in Down syndrome mice. Proc Natl Acad Sci USA 114(38):10268-1027.

セミナーに関する問い合わせ:
分子生命科学講座 出原賢治(内線2261)

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