第79回分子生命科学セミナー/大学院特別講義/がんゲノム医療セミナー


演題:がんゲノム医療の社会実装の現状と課題


演者:井本逸勢

愛知県がんセンター中央病院
リスク評価センター長

日時:平成30年7月17日(火)18:30〜19:30
場所:場所:臨床小講堂(3113室)


要旨

最近の遺伝医療・ゲノム医療の社会実装の流れの中で、がん領域では、体細胞パネル検査を受検し遺伝子変異ごとに最適な治療を選択するPrecision Medicineが進むことが期待されている。2013年頃より研究や自費診療で行われていたがん遺伝子パネル検査を保険診療化することを目指して、2018年度には11のがんゲノム医療中核拠点病院と約100の連携病院が選定され、国内で先進医療、自費診療でのパネル検査が混在するがんゲノム医療が進んでいる。一方で、このような流れとは独立してコンパニオン診断薬と位置づけられる比較的安価な商用の遺伝子パネル検査が製造販売承認申請され、今後一般のがん診療に用いられるようになる可能性がある。エキスパートボードと呼ばれる多職種からなる症例検討のための仕組みを持つがんゲノム中核拠点病院以外でも、がん治療に当たる最前線の医師が、変異情報を読み解き治験や先進医療などの情報にアクセスしてPrecision Medicineを実践することが求められることになる。また、体細胞パネル検査の利用が進むことで二次的所見として遺伝性腫瘍患者が見つかってくることが予測され、遺伝性腫瘍の原因遺伝子変異検出自体がコンパニオン診断となる分子標的薬が出現してきたこととあわせ、臨床情報から疑って「拾い上げる」よりがん診療の中で「拾い上がる」遺伝性腫瘍患者とリスク者である血縁者が急増する可能性がある。予防・治療法が存在しリスクを知ることが有用である遺伝性腫瘍を見逃さずに患者や血縁者に適切に情報とサーベイランスや予防的な介入を提供できる体制を整備することは、生殖細胞系列での変異を対象にしたもうひとつのがんゲノム医療の進展につながることになる。急展開するがんゲノム医療について課題を検証してみたい。

セミナーに関する問い合わせ:
分子生命科学講座 副島英伸(内線2260)

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