第78回分子生命科学セミナー/大学院特別講義


演題:粘膜免疫学の創生からワクチン開発まで


演者:清野 宏

東京大学医科学研究所
国際粘膜ワクチン開発研究センター センター長/炎症免疫学分野 教授

日時:平成29年11月6日(月)16:00〜17:00
場所:場所:臨床小講堂(3114室)


要旨

 口腔に始まる消化管は「内なる外」とも呼ばれ、広大な粘膜面を形成しており、そこに存在する免疫機構の解析は1970年代から本格化し、新たな免疫学領域「粘膜免疫学」の創生に繋がった。約半世紀の学問的蓄積は、近年の学問領域の異分野融合と技術的革新により、「免疫の新世界」と言われ神秘に包まれていた粘膜免疫機構のユニーク性についての学問的理解が、飛躍的に進歩した。
 この広大な「内なる外」は、上皮細胞を介して恒常的に直接外界に接しており、食物摂取、共生細菌、病原性細菌侵入など様々な生理学的、免疫学的、病理学的現象に遭遇している。粘膜面では粘膜系自然免疫と、獲得免疫を反映する防御・恒常性因子が含まれた分泌液が産生され、常在微生物との共生環境構築と、病原体に対する侵入阻止・排除という防御機構を担っている。つまり、粘膜免疫機構は「共生と排除」という全く相反する免疫応答を巧みに司っている。
 「共生」という観点から、粘膜免疫の要である腸管パイエル板の上皮細胞層に存在するM細胞を介して、一部の共生細菌(例:Alcarigenes菌)が取り込まれ、「組織内共生」を構築していることを明らかにしてきた。近年注目されている自然リンパ球(ILC)が、その組織内共生の環境作りに関わっており、さらに自然リンパ球が腸管上皮細胞の糖鎖修飾の制御を通して、共生細菌叢の維持や病原性細菌感染制御にも関与している。そこには、間葉系細胞による上皮−免疫系との統合的制御が存在している。つまり、消化管粘膜では、微生物群−上皮細胞/間葉系細胞群−免疫担当細胞群という3つの独立した生物学的エコシステムが相互・協調作用機構を形成しており、我々は『腸管マルチエコシステム』と呼んでいる。
  腸管における粘膜免疫システムのユニーク性の理解を踏まえた経口ワクチン開発研究も進んでいる。農学(コメ)と工学(植物工場)との異分野融合は、コメに中和抗体やワクチン抗原を発現させた「MucoRice」システムの創出に繋がった。コメが医薬品の生産体、長期貯蔵体、経口デリバリー体として応用され、その生産体制として、GMP対応型完全閉鎖系MucoRice水耕栽培施設の開発も進んだ。中和抗体・ワクチン発現遺伝子改変植物MucoRiceを医療用「経口ワクチン」として感染症をはじめとした疾患対策に応用していく開発研究も進んでいる。

セミナーに関する問い合わせ:
分子生命科学講座 出原 賢治 (内線 2261)

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