第63回分子生命科学セミナー/大学院特別講義


演題

骨リモデリングの制御機構


演者:中島 友紀
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 分子情報伝達学 助教
JST ERATOプロジェクト 高柳オステオネットワーク

日時:平成24年11月20日(木)17:00〜18:00
場所:3113室(臨床小講堂1)


要旨

 骨リモデリングは、骨表面に存在する破骨細胞と骨芽細胞による連関した制御システムであり、破骨細胞が骨を吸収することにより開始され、破壊された部分を骨芽細胞が新生骨により充填すると考えられているが、その詳細はいまだ不明な点が多い。破骨細胞はRANKLにより分化誘導されることから、その細胞内シグナル伝達機構は、分化メカニズムの解明と治療標的の同定という両方の意味で注目を集めている。RANKL-NFATc1経路が破骨細胞分化を厳密に制御していることが明らかにされてきたが、骨組織において、どの様な細胞が破骨細胞の分化を支持しているかはこれまで不明であった。 骨組織におけるRANKL発現細胞を解析した結果、これまでRANKLの供給細胞と想定されていた骨芽細胞や骨髄ストローマ細胞より、骨に埋め込まれた骨細胞が強力にRANKLを発現し、破骨細胞を支持する能力も他の細胞に比べ優れていることが明らかになった。さらに骨細胞特異的RANKL欠損マウスは、歯芽萌出や成長に影響は見られないが、重篤な大理石骨病を呈した。すなわち、成体において骨細胞が破骨細胞の分化を支持し、骨リモデリングの開始を司っていると考えられる(1)。
 また、最近、我々は骨芽系細胞の培養上清が、破骨細胞分化を抑制することに着目し、プロテオーム解析を用いて新たな可溶性の骨リモデリング制御因子Semaphorin3A(Sema3A)を同定した。Sema3A欠損マウスは著明な骨量の低下を示し、破骨細胞分化が顕著に亢進していた。さらに、骨芽細胞の分化は逆に強く抑制されており、骨髄中に多数の脂肪細胞が観察された。Sema3Aは、破骨細胞分化を抑制する一方で、骨芽細胞分化を促進する骨保護分子であることが明らかになり、今後の骨関連疾患の治療戦略を考える上で重要な役割を担うことが期待される(2)。

参考文献

1) Nakashima T, Hayashi M, Fukunaga T, Kurata K, Oh-hora M, Feng JQ, Bonewald LF, Kodama T, Wutz A, Wagner EF, Penninger JM and Takayanagi H. Evidence for osteocyte regulation of bone homeostasis through RANKL expression. Nat Med 17, 1231-4 (2011)
1173-1183, 2011
2) Hayashi M, Nakashima T, Taniguchi N, Kumanogo A and Takayanagi H. Osteoprotection by semaphorin3A. Nature 485, 69-74 (2012)

セミナーに関する問い合わせ:
分子生命科学講座 原 博満 (内線2294)

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