第61回分子生命科学セミナー


演題

DNA傷害の新たな視点
―mRNA輸送分子GANP欠損による転写共役型DNA損傷と発癌の実証―


演者:桑原 一彦
熊本大学 大学院生命科学研究部 免疫学分野 准教授

日時:平成24年11月19日(月)18:30〜19:30
場所:3113室(臨床小講堂1)


要旨

 DNA損傷は細胞の分化や増殖の過程で細胞周期と関連しているが、おおむねその修復は相同組み替え(homologous recombination: HR)と非相同断端接合(non homologous end-joining: NHEJ)によって行われる. HR修復はerror freeの安全な修復として多くの遺伝子損傷で機能する. 近年、次世代シークエンスによって様々な細胞種の自然発ガンの遺伝子障害は組織や細胞分化に密接に関連した特定の危険ホットスポット領域に選択的に生じることが明らかにされているが、その選択的遺伝子損傷の原因は明らかでない. 私たちは、ほ乳動物の mRNA核外輸送複合体(TREX-2)に注目し、転写共役型DNA欠損と発ガンの関連について解析を進めている.    
  2000年に胚中心B細胞で発現上昇するGANPを見いだした. GANPが抗体V領域遺伝子の転写に共役して体細胞突然変異導入に関与することを遺伝子改変マウスの解析から明らかにした. GANPの出芽酵母相同分子Sac3はmRNA核外輸送に関与し、欠損酵母は転写共役型DNA損傷時に相同領域を用いてcis-領域間でのDNA組換えを誘導する. GANPもSac3同様mRNA核外輸送に関与し、DNA組換えを抑制する. しかしながら現時点では、果たして転写共役型DNA損傷が実際に発ガンに関連するかどうかの確証が得られていない. そこでGANPの異常と発ガンとの関連について追跡した。ganpヘテロ欠損マウスは一見問題なく成長するが、加齢とともに雌マウスにおいて乳癌を高発症した. 乳腺特異的wap-creを用いて乳腺特異的ganp欠損マウスを作成したところ、乳腺組織のエストロゲン依存性の分化発達に障害を起こし、高率に腺癌を発症し、その腫瘍は極めて悪性度が高く肺転移を伴い死亡した. ヒトの臨床検体非遺伝性散発性乳癌92例で、GANP発現の低下が悪性度と相関し、生存率に著しい影響を及ぼした。本研究は哺乳動物細胞における転写共役型DNA傷害が自然発ガンの原因と関連することを初めて明らかに示したものであり、この動物モデルが様々な臓器における発ガンのリスクファクターの解明に有効である.

参考文献

1) Kuwaharaら, Blood, 2000, 2) Kuwaharaら, PNAS, 2001, 3) EL-Gazzarら、J. Biol. Chem., 2001, 4) Kuwaharaら, PNAS, 2004, 5) Fujimuraら, Cancer Res., 2005, 6) Sakaguchiら, J. Immunol., 2005, 7) Nakayaら, J. Immunol., 2010, 8) Sakaguchiら, Scan. J. Immunol., 2011, 9) Kuwaharaら, J. Immunol., (in press).

 

セミナーに関する問い合わせ:
分子生命科学講座 副島英伸 (内線2260)
免疫学講座 木本雅夫 (内線2255)


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