第56回分子生命科学セミナー/大学院特別講義


演題

iPS細胞作製技術を用いたがんエピジェネティクス研究


演者:山田 泰広
京都大学iPS細胞研究所 特定拠点教授 


日時:平成23年10月25日(火)17:30〜18:30
場所:3113室(臨床小講堂1)


要旨

 分化した体細胞に4つの異なる転写因子を導入することで、胚性幹細胞(ES細胞)とほぼ同等の細胞、すなわちinduced pluripotent stem cell(iPS細胞)の樹立が可能となった。iPS細胞は無限に増殖させることが可能であり、かつ全ての体細胞に分化しうるという特徴から、再生医療のソースとして大きな期待を集めている。しかしながら、一方でマウスiPS細胞から作製されたキメラマウスには腫瘍形成が頻繁に見られ、iPS細胞を用いた安全な再生医療の実現のためには、iPS細胞由来の腫瘍発生を制御する必要がある。本発表では、まず、iPS細胞から作製されたキメラマウスに発生する腫瘍の病理学的解析について紹介する。キメラマウスに発生する腫瘍は、典型的な奇形腫はまれであり、未分化細胞の増生からなる腫瘍が特徴的であった。また、増生する未分化細胞の一部では、神経組織などへの分化傾向が認められた。iPS細胞由来キメラマウスの腫瘍解析から明らかとなりつつある、iPS細胞からの腫瘍発生メカニズムについて紹介し、細胞リプログラミングと腫瘍発生の接点を議論したい。
 多くのがん細胞で、DNAメチル化異常に代表されるエピジェネティック修飾異常が観察される。一方で、iPS細胞樹立の過程には、遺伝子塩基配列の変化は必要なく、エピジェネティック修飾状態の大きな改変を伴うことが明らかとなってきた。従って、iPS細胞作製技術は腫瘍細胞のエピゲノム状態を強制的に変化させうるツールとして有用であると考えられる。細胞初期化技術を応用したがん細胞のエピジェネティック制御機構の意義解明への取り組みについて紹介したい。

 

セミナーに関する問い合わせ:分子生命科学講座 副島英伸(内線2260)

 

セミナー一覧に戻る

分子生命科学トップに戻る