第49回分子生命科学セミナー

 

演題

慢性骨髄性白血病を治す


演者:木村 晋也
佐賀大学医学部血液・呼吸器・腫瘍内科 教授



日時:平成21年11月25日(水)18:30〜19:30
場所:看護棟1F 5105室


要旨

 慢性骨髄性白血病 (CML) は、9番染色体と22番染色体の相互転座で生じる bcr-abl キメラ遺伝子によって発症する。ABLチロシンキナーゼ阻害剤 (TKI)メシル酸イマチニブは、CMLに対して劇的な効果を示す。しかし、一部の症例では早期に耐性を示すこと、またイマチニブのみでの完治は困難とされている。CML完治のために、2つの方向(有効な併用薬の探索および、単剤でイマチニブを凌駕する新規薬剤の開発)で研究を進めてきた。イマチニブに有効な併用薬として、骨粗しょう症治療薬ビスホスホネート (Blood 2003)、bcl-2阻害剤 (PNAS 2006)、マラリア治療薬クロロキン (Cell Death Diff 2008) を見出し、特にビスホスホネートには多彩な抗腫瘍効果があることを報告した(Clin Cancer Res 2005, Cancer Immunol Immun 2009)。イマチニブとビスホスホネートあるいはクロロキン併用の臨床試験が開始されている。また日本新薬と共同でABLに対し約100倍親和性が高く、動物実験ではより副作用の少ないバフェチニブの開発に成功した (Blood 2005, Blood 2007)。MD Anderson癌センターを中心に行なった臨床第I相試験では良好な結果が得られ、臨床第II試験の準備中である。しかし、バフェチニブも他のABL阻害剤と同様にT315I 変異を有するクローンとCML幹細胞には有効でないことが明らかとなった。CML完治を目指し、T315Iに有効な薬剤としてAstex社と共同でAurora/JAK2/ABL キナーゼ阻害剤AT9283の効果について検討した。また未だCMLへの応用には至っていないが、固形癌に対するPLK-1 siRNAの有効性も報告してきた (J Clin Invest 2005, Mol Cancer Ther 2008)。最近、CML幹細胞のニッチとして破骨細胞および低酸素環境が重要であることを見出した (Leuk Res 2009)。そして、今後さらに有効な薬剤開発のためには新たなデバイスの必要性を感じ、直径1mmのナノチャンバー(島津との共同開発、The Analyst 2007)や局在表面プラズモン法(キャノンとの共同研究)などの開発も併行して行なっている。今後、これらの研究を統合し、薬剤だけでCMLを完治させる治療法の確立を目指している。

 

セミナーに関する問い合わせ:分子生命科学講座 吉田裕樹(内線2290)

 

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