第47回分子生命科学セミナー

 

演題

熱帯熱マラリア原虫と赤痢アメーバ原虫の特異的な代謝


演者:見市 文香
国立感染症研究所寄生動物部流動研究員



日時:平成21年10月14日(水)17:30〜18:30
場所:臨床研究棟4F 2424室


要旨

1.熱帯熱マラリア原虫ミトコンドリアの生化学的解析
 熱帯熱マラリア原虫は重篤なマラリア症を引き起こす病原体である。熱帯熱マラリア原虫はその細胞内にミトコンドリアを1つしか持たず、そのミトコンドリアはクリステを持たない。しかしながら原虫の生存にミトコンドリアは必須であると考えられ、化学療法剤の標的として期待されている。我々は、原虫ミトコンドリア電子伝達系の酵素の生化学的解析を行い、その特異性を明らかにし、いくつかの阻害剤の候補を得た。さらに、一般の真核生物で主たる脂肪酸の代謝経路であるβ酸化経路 が機能していないことを見出した。

2.熱帯熱マラリア原虫の脂肪酸代謝
 赤血球期熱帯熱マラリア原虫の細胞増殖は宿主血清中の脂肪酸に依存していが、原虫における脂肪酸の代謝・輸送の分子機構には解決されていない点が多い。今回、原虫の増殖には16:0/18:1n-9を含む、もしくは18:0を含む3種類の特定の脂肪酸を組み合わせることが必須であること、一方で、原虫の脂肪酸種の取り込み能、および各種脂質成分への代謝能に選択性が低いことを明らかにした。さらに “18:1n-9“(不飽和反応酵素がにより原虫内に常に存在する脂肪酸)が原虫のステージの移行に重要な役割を果たしていることを見出した。

3.赤痢アメーバ原虫のミトコンドリア関連オルガネラの新規機能―硫酸活性化経路―
 赤痢アメーバ原虫は単細胞真核生物であるが、典型的なミトコンドリアを持たない。かわりにマイトソームと呼ばれるミトコンドリア関連オルガネラ(嫌気性の原生生物にみられる退化したミトコンドリア)を持つが、その生理的機能は不明であった。今回、我々は硫酸活性化経路がマイトソームの主たる機能であることを見出した。硫酸活性化経路は、通常は細胞質・色素体に存在し、他の嫌気性原生生物のミトコンドリア関連オルガネラにも硫酸活性化経路は存在しない。そのため、赤痢アメーバ原虫のマイトソームは、単にミトコンドリアが退化したものではなく、進化の過程で硫酸活性化経路を取り込み、独自に進化したと考えられる。

 

セミナーに関する問い合わせ:分子生命科学講座 吉田裕樹(内線2290)

 

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