第34回分子生命科学セミナー/大学院特別講義

演題

原爆後障害としての固形がん研究の現状


演者:中島 正洋
長崎大学大学院医歯薬学総合研究科
原爆後障害医療研究施設・生体材料保存室


日時:平成18年11月24日(金)17:30〜18:30
場所:臨床小講堂2 (3114)

要旨

 広島・長崎の原爆投下以来60年が経過した。被爆者の約48%は生存中であり、固形がん罹患率は対照群と比較して今もなお高い。我々は被爆者重複がんの罹患率と被爆距離との相関を解析し、近距離被爆群での重複がん罹患の有意な上昇は被爆後30年以上経過後に始まり、現在まで増加が持続していることを見出した [投稿中]。これは若年被爆者が放射線曝露から60年経過してがん好発年齢に到達した現在、多様ながんを罹患する危険の高いことを意味している。「何故被爆者において固形がん罹患の上昇が数十年も続くのか?」、その分子機構は未だ解明されておらず、原爆後障害研究の最大の難問と言える。甲状腺癌は放射線被曝との因果関係のある代表的固形がんとして知られる。我々は放射線関連甲状腺癌でCyclinD1の過剰発現のみられることを報告したが[Meirmanov, et al., Thyroid (2003), Nakashima, et al., J Pathol (2004), Lantsov, et al., Histopathology (2005)]、その病理学的特異性は不明である。他の放射線誘発腫瘍にも特異的刻印(radiation signature)は現在まで同定されていない。
 我々は最近、放射線誘発甲状腺癌に新規RETがん原遺伝子異常である遺伝子増幅の存在を見出した [投稿中]。がん原遺伝子増幅は種々の固形がんで知られ、予後不良と相関し、遺伝子不安定性に起因することが示唆されている。RET遺伝子増幅も放射線誘発甲状腺癌のみならず未分化癌などの高悪性度群にも見られ、放射線特異的ではなかった。本講演では、我々の行っている原爆後障害としての固形がん研究の現状を紹介する。被爆者を含む甲状腺癌ではRET遺伝子増幅と悪性度および遺伝子不安定性との相関が示唆された。被爆者甲状腺濾胞上皮には原爆放射線被曝によるDNA傷害の修復後の影響が軽微な遺伝子不安定性として存続し、長期にわたるがん罹患を高めているのかも知れない。

 

セミナーに関する問い合わせ:病因病態科学講座 戸田修二(内線2233)

 

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