第26回分子生命科学セミナー/大学院特別講義

演題:Sotos 症候群の分子機構

演者:新川 詔夫
(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 原爆後障害医療研究施設 分子医療部門)

日時:平成16年6月7日(月)17:30〜18:30
場所:臨床小講堂1 (3113)

新川教授は、染色体異常をもとにしたポジショナルクローニングにより数々の病因遺伝子を単離されておられるポジショナルクローニングの第一人者です。今回は、Sotos症候群の原因遺伝子単離とその分子機構について講演していただきます。

内容

 Sotos症候群(SS, 脳性巨人症)は過成長、骨年齢増加、大頭と尖った頤を示す特異顔貌、脳奇形、けいれん、精神遅滞、ときに悪性腫瘍を伴う常染色体優性神経疾患である。新生染色体転座t(5;8)(q35;q24.1)を合併したSS女児の5q35切断点クローニングを行い、 NSD1 を単離した。 NSD1 は、SET, PHDフィンガーおよび PWWPドメインをもつ2,696 個のアミノ酸(核内受容体と相互作用を示すタンパク)をコードする。SS患者112名の変異解析の結果、16名(14%)に点変異(蛋白切断型変異10名、機能ドメイン中のミスセンス変異6名)、50名(45%)に NSD1 を含む1.5 Mb欠失を同定した。欠失の頻度は、日本人(45/95, 52%)と白人(1/17, 6%)患者の間に大きな差異を認めた。 NSD1 領域のFISH解析では、50名中46名に1.5-Mb 領域を含む共通欠失を認め、4名は異なる切断点をもつより小さな欠失であった。共通欠失の両端に2つのlow copy repeats (LCR)を同定したため、LCRにおける組換えが共通欠失をもたらしたと結論した。臨床像では、欠失患者における身長のピーク値(+3.3 SD)およびIQ/DQ 値(78) が点変異患者に比べて小さかった(p<0.007, p<0.03)。心臓血管病変・泌尿器奇形は欠失患者で多くみられた。変異の頻度差および臨床像の差異の知見は、日本人と白人患者間に診断基準の違いがあることを示唆する。20名の患者で行ったマイクロサテライト多型解析では、18名の欠失は父性染色体で生じ、2名の欠失は母性染色体で生じていた。ハプロタイプ解析では、5例の父性欠失と1例の母性欠失は相同染色体間に起きた再構成であり、2例では染色体内部で生じた再構成であった。このことは欠失が均一の機構で生じたものではないことを示す。上記の結果は、Sotos症候群の主たる原因はNSD1のハプロ不全であり、 NSD1 は成長や脳の発達に大きな役割を果していることを示す。

セミナーに関する問い合わせ:分子生命科学 向井常博(内線2260)

 

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