第62回分子生命科学セミナー


演題

ゲノムワイド関連解析を用いたアレルギー疾患の病態解析


演者:玉利 真由美
理化学研究所 ゲノム医科学研究センター呼吸器疾患研究チーム

日時:平成24年11月22日(木)17:00〜18:00
場所:3114室(臨床小講堂2)


要旨

 アレルギー疾患は環境要因と遺伝要因が複雑に関与して発症すると考えられている。近年の遺伝子多型の情報基盤の整備や高速大量タイピング法の確立などゲノム解析技術の進歩は目覚ましく、ゲノムワイド関連解析(GWAS, genome-wide association study)を用いた疾患の遺伝要因の解明が急速に進んでいる。アレルギー分野においても気管支喘息、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎などについてGWASが行なわれ、それらの遺伝要因に関連するゲノム領域が次々と同定されてきている。GWASは仮説を立てることなく、多数のヒトサンプルを用い、全ゲノムを対象にスクリーニングすることにより疾患関連領域を決定する。それらにより同定された疾患関連領域の情報は、ヒトの病態を解明する手がかりを多く含んでいる。気管支喘息やアトピー性皮膚炎の疾患関連領域には、免疫学的研究においてアレルギー炎症との関連が注目されているTSLP、IL-13、IL-33やIL-33受容体であるST2、制御性T細胞で重要な役割を果たすGARP、EGR2などの遺伝子が含まれていた。また、GWASで同定された関連領域には既知の遺伝子の他に、アレルギーを緩和するための未来の治療の分子標的が含まれている可能性がある。今後、各関連領域について、より詳細な検討が期待される。また一連のGWAS解析により、気管支喘息とアトピー性皮膚炎に共通する関連領域も見つかってきている。アレルギーマーチの発症プロセスの科学的解明につながっていくことが期待される。多数のヒト臨床サンプルを用いたこれらのGWASの知見は、免疫学、疫学などとの領域横断的な解釈により、臨床研究の仮説立案に多いに役立つであろう。本講演ではGWASの具体的な方法について、また実際の気管支喘息、アトピー性皮膚炎のGWASの最近の成果についてお話し、さらに免疫学、疫学の知見も含めた臨床応用への可能性についてもお話したい。

参考文献

N Engl J Med, vol. 365, 1173-1183, 2011
Nat Genet, vol. 43, 893-896, 2011

セミナーに関する問い合わせ:
分子生命科学講座 出原 賢治 (内線2261)

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