第58回分子生命科学セミナー/大学院特別講義
平成24年度 第1回総合分析実験センターセミナー


演題

がん細胞のエピゲノム異常を標的とした新しいがんの診断と治療


演者:近藤 豊
愛知県がんセンター研究所分子腫瘍学部 室長
文科省「次世代がん研究戦略推進プロジェクト」チームリーダー

日時:平成24年6月19日(火)17:30〜18:30
場所:3114室(臨床小講堂2)


要旨

 がんは日本人における死亡原因の第一位の疾患である。医療の進歩によりがんに対する治療成績が向上しつつあるが、再発・転移をきたすがんは依然としてがん死の主な原因である。最近の研究から、近年のマイクロアレイやシークエンス技術の進歩により、がん細胞では、遺伝子の突然変異に加えて、予想以上に多くのエピゲノム異常が蓄積していることが明らかとなってきた。特にエピジェネティックな異常は、ジェネティックな異常よりも早期から発がん関わる可能性が示唆されており、さらにその影響は、広範な遺伝子座に及ぶと考えられている。すなわち、がんにおけるエピジェネティクス異常の解明は、がん医療を考えていく上で喫緊の課題である。我々の研究室では、これまでがん細胞におけるエピジェネティクス異常の網羅的解析やDNAメチル化の定量的解析法に取り組んできた。エピジェネティクスの標的遺伝子は、がんの種類によって異なり、さらに標的遺伝子数は、がんの種類のみならず個体差も観察された。これらのエピジェネティクスの多様性はがんの個性を反映していると考えられ、可塑性を担うヒストン修飾機構と、安定したDNAメチル化がネットワークを形成し、がんの発生・進展に係わっていると推測される。エピゲノム異常は、ほとんどすべてのがん細胞において認められ、発がん過程の早期からがんの生物学的特性に影響を与えていると考えられている。こうした観点から、エピゲノム異常の検出はがん診断への応用が期待でき、さらにエピゲノム異常の正常化は、新しいがん治療標的としての新たな展開が期待できる。本セミナーでは、がん細胞におけるエピジェネティクス研究の現況と将来への展望について述べる。

セミナーに関する問い合わせ:
分子生命科学講座 副島英伸
(内線2260)

セミナー一覧に戻る

分子生命科学トップに戻る