第40回分子生命科学セミナー/大学院特別講義

演題

サイトカイン抑制シグナル分子SOCSによる免疫疾患制御


演者:久保 允人
理研 免疫アレルギー綜合研究センター チームリーダー



日時:平成20年9月16日(火)17:00〜18:00
場所:研究棟2424室


要旨

 サイトカインに対する受容体は、細胞内ドメインに会合する Jak型チロシンキナーゼと転写因子STATによるシグナル伝達系によって制御されている。感染症などによって引き起こされる激性炎症は、急激なサイトカイン産生(サイトカインストーム)を引き起こし、時として過剰な炎症反応などが伴うことによって免疫反応のバランスが破綻し、生体を死に至らしめる危険性を生み出している。この危険性を回避するため、生体はサイトカインバランスの恒常性を厳格に制御するシグナル伝達システムを備えておりJak/STAT シグナル伝達系に対してはSuppressor of Cytokine Signaling (SOCS)が抑制制御に機能している。
 そこで、上皮細胞系におけるSOCS分子の役割を明らかにする目的で、皮膚特異的SOCS3欠損マウスを作製した。このマウスは、生後5ヶ月令より引っ掻き行動を伴う皮膚炎を発症し始め、生後5ヶ月令には90%以上の個体で重度の皮膚炎の発症が認められるようになった。皮膚炎部位では角質層においてSTAT6の活性化がみられ、角質層は顕著に肥厚していた。さらに、病変部位では好中球の浸潤と重度の血管拡張が認められたことから、このマウスで自然発症している皮膚炎は乾癬様の病態であった。また、このマウスを毛ぞりすることで角質層の肥厚を誘導でき、その際の皮膚では魚鱗症に似た病態を示していた。このマウスモデルにおける乾癬様皮膚炎はIL-6を起点としており、SOCS3はIL-6による角質細胞におけるSTAT3の活性化を抑制的に制御することにより、皮膚の恒常性を保つ重要な働きを持つ働きがあることが明らかとなった。これより、SOCS3を用いた皮膚炎の制御という新しい治療法の開発が期待される。


セミナーに関する問い合わせ:分子生命科学講座 出原 賢治(内線2261)

 

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