地域医療科学教育センター

 
第15回地域医療科学教育研究センター重点医療研究部門研究会(特別講演)

演題

総合診療医育成のための疫学的研究と臨床的研究

演者:林 純(九州大学病院総合診療部部長/九州大学大学院感染環境医学教授)
日時:平成18年4月27日(木)17:30〜18:30
場所:臨床小講堂2 (3114)


要旨

 平成16年から新しく医師の初期研修制度が始まり、さらに平成18年4月から後期(専門)研修が開始されたことにより、プライマリ・ケアの担い手である総合診療医のアイデンテイテイーが問われている。私どもは研究マインドを持った臨床に強い総合診療医を育成するため、疫学的研究を通じて地域医療との連携を学び、さらにエビデンスに基づいた予防医学の実践のため臨床的研究を行っている。今回私どもが九州大学病院総合診療部の外来入院患者、福岡県粕屋町および星野村、長崎県壱岐市、沖縄県石垣市の一般住民を対象として行ってきた疫学的研究とそれに関連した臨床的研究をご紹介したい。
肝炎ウイルス
 B型肝炎ウイルス(HBV)の感染経路は母子感染だけでなく保育園内感染などの水平感染もみられ、HBワクチン接種はいずれの感染経路の遮断にも有効だった。HBV感染者はそのgenotypeにより予後が異なり、九州地区でのHBV感染者は肝癌発症の危険性が高いgenotype Cであり、積極的な抗ウイルス剤の投与により良好な結果が得られている。また、わが国におけるC型肝炎ウイルス(HCV)の主な感染経路は医療行為と考えられ、慢性HCV感染者は加齢とともに肝癌を発症するため、積極的なインターフェロン投与により肝癌の発症を抑制した。
成人T細胞白血病ウイルス(HTLV-1)
 HTLV-1の主な感染経路は母乳であり、母乳保育の制限により感染が減少した。また、HTLV-1とHCVの重複感染者は肝癌を高頻度に発症しており、このような患者では肝癌のスクリーニング検査を頻回に行っている。
動脈硬化症
 動脈硬化症の危険因子として高脂血症が重要であるため、高脂血症患者にスタチンやプロブコールなどの脂質低下剤を積極的に投与し、血清コレステロール値の低下のみならず動脈硬化症の改善を見た。また、喫煙の中止により動脈硬化症の有意な改善とイベントの抑制がみられたため、禁煙外来を実施している。
 以上より、疫学的研究はそのエビデンスを臨床に応用でき、また、予防医学の実践にも繋がり、総合診療医の育成に有用と考えられた。

セミナーに関する問い合わせ:分子生命科学・出原(内線2261)




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