制限酵素Hind III

◆ 中間径フィラメント

 

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 制限酵素Hind III

 

HindIII AAGCTT というパリドローム配列を認識・切断するタイプIIの制限酵素である。この酵素の遺伝子をクローニングし、大腸菌で発現する系を確立した。そして蛋白工学的な手法を用いて様々な変異体を作成し、構造と活性の関係を明らかにしてきた(図1参照)。変異酵素には活性を2倍ほど増加させたものもあるし、基質特異性を変化させたものもある。また2000年より、北大大学院理学研究科の渡邊信久助教授とHindIIIの結晶化をもとに立体構造の決定を行うというテーマで共同研究を行っている。未だ十分な結晶が得られていないが、リコンビナントタンパク質の精製という点では大きな成果を得た。図2には参考のために、既に構造が明らかになっている制限酵素 BamHI の立体構造を載せている。HindIIIの立体構造は、佐賀県シンクロトロン放射光研究施設において決定されるであろう。

 

 

◆ 中間径フィラメント

 

 中間径フィラメント(intermediate filament、以下IFと略)は「細胞骨格」と呼ばれるタンパク質繊維成分のひとつです。IFはその直径が約10 nmで、細胞質全体に広がったタンパク質繊維のネットワークを形成しています。また、核膜の裏打ち構造(核ラミナ)を形成するものもあります。主な役割は細胞の機械的支持体として、外からの力学的刺激などに対抗して細胞構造を維持することです。IFを構成するタンパク質の遺伝子に変異などがあると、細胞内に正常なIFが形成されないことがあります。その場合、細胞の外部刺激に対する抵抗性が弱まるので、例えば表皮がもろくなってはがれたり、水泡を生じやすくなったりします。また、骨格筋や心筋が加齢とともに機能しなくなることが知られています。このようにIFは細胞の構造維持に重要なのですが、IFを構成するタンパク質が規則正しく集合して繊維構造を形成(重合)する仕組みは、まだよくわかっていません。また、細胞の分裂にともなって繊維構造が崩壊(脱重合)するのですが、分裂後には繊維構造が再形成されるようにダイナミックな構造変化を起こします。この制御に、リン酸化・脱リン酸化が働いていることが明らかにされつつあります。

 

 私たちは、以下のテーマについて研究を行っています。

@ IFの形成機構の解析

A IFの遺伝子変異あるいは代謝異常と疾患の関連性の解析

B IFの分子進化の解析

C IFのナノテクノロジーへの応用

D IF結合蛋白質の解析

 

@ IFの形成機構については、IFタンパク質とその各種変異体を調製し、IF形成過程を電子顕微鏡や原子間力顕微鏡などを使って調べることで、IF形成に重要な構造要素を見つけようとしています。また、IFタンパク質には多様な種類が存在しますが、いずれも最終的には直径約10 nmIFを形成します。しかし最近、タンパク質の種類によってIF形成の仕方が異なることがわかってきました。この事は各IFの機能や存在する細胞内の環境と密接に関連することが考えられます。私達は、IFタンパク質がもつ構造の多様性がIFの機能においてどのような意義をもつのか調べています。さらに細胞内でIFが機能する上で、D IF結合蛋白質の存在が不可欠です。私達は核内のIF結合蛋白質についても構造−機能の相関性を調べています。A 疾患との関連性については、白内障に関わるIFについて解析しています。水晶体内に特異的に存在するIFは光透過性の維持に重要なのですが、遺伝子変異あるいは代謝異常によってIFが機能しなくなると、白内障を起こす一因になるのです。

B IFの分子進化については、下等動物がもつIFタンパク質の遺伝子クローニング、発現部位の解析、組換えタンパク質の機能解析などを行っています。IFタンパク質はいずれも類似した基本構造をもつため、一つの祖先型から進化したと考えられます。解析の遅れている下等動物のIFタンパク質を調べることで、どのように分子進化してきたか、その過程を明らかにできます。

C IFのナノテクノロジーへの応用については、IFを鋳型にした新しいナノ素材の開発などを行っています。元来IFは生体のナノ素材そのものですが、そのシステムを人工的に応用して、有用な素材を開発することを目指しています。

 

 

 

 

 

 

 

 

研究テーマ

Fig2
Fig1
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